このレジュメは増田善信さんが2012年8月11日に狛江市中央公民館で行った講演会のレジュメです。この講演会には約40名の方々が参加されました。
                                 
         

主催:狛江の放射能を測る会
場所:狛江市中央公民館第4会議室
日時:2012年8月11日(木)12:30-15:30






福島第一原発事故とこれからの電力エネルギー
                         

元・気象研究所研究室長 理学博士 増田 善信 

犠牲になられた方々にお悔やみと、被害を受けられた方々にお見舞い申し上げます

1,国会事故調査委員会の報告書(2012年7月5日発表)
(1) 福島原発事故は「人災」と断定
 ○事故は「依然として収束しておらず、被害も継続している」
 ○原発は3・11以前から地震と津波には耐えられなかった
①保安院も東電も2006年に「敷地高以上の津波が来ると全電源が喪失し、海水ポンプが機能停止し、炉心損傷に至る」と確認。しかし、対策は採らず、②規制当局と東電は、どちらが規制し、規制されるかが分からない「逆転現象」が起り、「監視・監督機能が崩壊」していた
 ○原因を津波に限定すべきでない
  地震で外部電源喪失、津波で海水ポンプ流失、地震で配管破壊の可能性
(2)「過酷事故」を想定した訓練をしていなかったー増田の「見解」
  ①地震・津波が発生したのは昼間、もしこれが夜だったら今回の地震・津波による被害者はもっと多くなっていた可能性あり。まさに幸運であった、②そのことは原発にもいえる。暗くなるまでに4時間、強い放射能が測定されるまでに6時間の余裕があった、③もしこの時間に「過酷事故」の訓練通りに対処すれば事故は防げた、④しかし、訓練のマニアルは電気のあるときのもので、「全電源喪失」のマニアルはなく、右往左往の状況、
(3)これで再稼働などもってのほか

2, 日本の原発は津波に弱い
(1) 津波は破壊力がこわいー津波の速さ=√gh
(2) 日本付近は地震・津波の常襲地帯
(3) 原発の想定波高は不十分

3, 福島第1原発の放射性物質は何処まで流れたか
(1)福島大学渡辺明教授の放射線の測定結果とNOAAのhysplit modelによる計算結果
(2)群馬大学早川由紀夫教授の汚染地図と汚染した主な日時
(3)日本共産党都議団の東京都の測定結果
(4)日本及び東京都の文部科学省のヘリによる調査
(5)山の中腹以上に多い放射能と国道399号線の測定結果
(6)自然放射能は一般に関西が関東や九州の約2倍強いー火山灰に覆われているため

4,福島原発の汚染地図とチェルノブイリとの比較
(1)福島原発4基から出た放射性物質の総量は広島原爆の約20発分。チェルノブイリの10分の1だが、比較的狭い範囲に落下したので、周辺の汚染はチェルノブイリ以上
(2)チェルノブイリ事故5年、10年、20年後の状況
  ①事故を起こした4号炉の放射線―8mのコンクリートを透して東京の約660倍、②「展望台」での放射線も同じ強さ、③汚染地図と無人になったバロトロメエフカ村、④子どもの甲状腺がんの多発とヨウ素剤の問題、⑤許せない「秘密主義」
(3)チェルノブイリの汚染図を玄海原発に重ねると
(4)チェルノブイリの「現代の古墳」と放射線に汚された金属や汚泥などの“墓場”の実態と福島での必要性

5, 放射線の人体影響― 何故放射線はこわいか
(1) ベクレルとシーベルト
(2) 放射線によるDNA損傷と修復のメカニズム
(3) 急性症状―ヒロシマ・ナガサキの直爆被爆などの例
(4) 低線量被曝とがん発生率―「おそれて、こわがらず」
(5) セシウムの減衰の仕方―福島の場合は6年で3分の1に
(6) 厚労省の食品の新基準―先ず、完全実施させ、さらに改訂させる

6, 放射線を減らす除染はどうするか
(1)どのようなところが汚染されているか
  ①雨樋の下、取水口、草むら、②滑り台の下、砂場など、③山林、特にその落ち葉
(2)除染はどうするか
  ①先ず、放射線を測定する、②水で洗う、③「天地返し」をする、④有効な方法が種々提案されているが、手軽にできるものでないと不可
(3)汚染された土や泥、灰は何処へ持っていくか―“墓場”、事故を起こした原発の敷地
(4)山林の汚染状況と山間部の通学路の除染
(5)湖沼や海洋汚染は

7,使用済み核燃料の処理・処分が未定
(1)使用済み核燃料の放射線はどう変化するか―10万年は監視が必要
(2)使用済み核燃料の処理・処分の方法が無い―トイレなきマンション
①再処理の危険性、②地層処分も不安、③長期間安全に保管する場所も方法もなし―ユ
ッカマウンテン、オスカーシュハムの実験
(3)将来の問題ではなく、今までの使用済み核燃料をどう処理・処分するかが大問題

8,福島原発はどうなるー今後の見通し
(1)「冷温停止状態で収束」というが収束はまだ。スリーマイル原発事故を参考
①4,5年間は冷却水で冷やし続ける、②原子炉の上蓋を開け、原子炉内の状況を調べる、③遠隔操作でメルトスルーした熱塊を切断し、安全なところにもっていく、④20~30年後やっと廃炉、⑤原発4基がメルトスルーと水素爆発しているのでさらに困難
(2)もし冷温停止に失敗すると、メルトダウンした熱塊が再び溶け出し、再臨界するかもしれない。すると作業員がいられなくなるので、次々と連鎖爆発し、最終的には5,6号機まで連鎖爆発という最悪の事態が起る

9.人類と核は共存できない
(1)核反応(1億℃)、化学反応(2千℃)→太陽や星を地球で制御するようなもの
(2)核廃棄物は安全に処理できない→10万年も厳重管理できるか
(3)原爆と原発の核エネルギー利用→軍事的、商業的利用いずれも危険
(4)同位元素の医療用・学術的利用→核だからといって拒否すべきでない
(5)原発から撤退する以外にない

10,危険な原発は廃炉以外にない
(1)事故を起こした福島第1原発の廃炉問題
 ①スリーマイルが参考になるが、それ以上困難がある、②3つの原子炉がメルトスルーし、高放射能地域で作業しなければならない、③恐らく40~50年はかかるであろう
(2) 他の原発の廃炉はどのようにするかーアメリカ・カルフォルニヤのランチョ・セコ原発の例
① 使用済み核燃料の安全な隔離―乾式と湿式、②放射能の弱いものから順次処理―放射能を含んだチリが飛び散らないように細心の注意が必要、③放射能に強く汚染された原子炉本体などは、放射能が減るのを待って地中に埋める
(3) 原発立地地域の雇用や経済はどうなる
① 廃炉が完成するまでは、使用済み核燃料の監視、放射能に汚染された機材などの処理、処分など、多くの原発運転経験の労働者が必要、②廃炉が完了した跡地は、自然エネルギーの生産立地として最適

11,原発なしで電気は賄えるか
(1) 原発が3割の電力を賄っているとのウソ
(2) 原発のコストは「最低」もウソー電気料金のカラクリ
(3) 日最大電力はどんな変化をしているか、
(4) 毎年の日最大電力と原発なしの電力の比較
① 原発なしで日最大電力は十分賄える、②最悪の場合でも、工場などの休日を夏季だけ土日以外にすれば、「計画停電」は不要
(5)大飯3,4号を再稼働させたが、関西電力管内の電力は原発なしでも十分だった

12,原発なしで温暖化は防ぐためにー省エネと自然エネルギーの利用
(1) 原発は地球温暖化防止の救世主のように考えられてきた
(2) 温室効果ガス、特にCO2を減らすためにどうするか
① 省エネの徹底、②公営交通の再編と自転車の利用、③自然エネルギーへの大転換

13,自然エネルギーを導入する際の基本的な考え
(1)環境問題を考える視点
①地球上に生まれた生物自身が、46億年もかかってつくりあげてきた地球を、僅か100年で台なしにしようとしている、②環境を壊すものは、微量な物質で、五感では感知できない。感知できたときは手遅れである、③しかし、これらの物質は、すべて人為的に増やしたり、作られたりしたものであるから、必ず減らすことや、無くすことが出来る、④環境を壊す物質は極めて微量であるから、環境へ出てからでは遅い。従って「発生源で止める」が基本である、⑤一つの環境破壊を防いでも、別の新しい環境問題が起こる可能性がある。別の環境破壊を起さない方法を考える必要がある
(2)環境破壊のしくみと持続可能な社会
そもそも人間は自然から物を取り、加工、製造、利用し、それぞれの過程で生じた廃棄物を自然に戻すという方法で生きている。一方、自然には再生能力と浄化能力がある。自然の再生能力以上に物を取り、浄化能力を超えて廃棄物を捨てると、環境破壊が起こるのである。しかし、再生能力も浄化能力も固定したものではなく、人間の行為によって増えもするし、減りもする。
従って、環境破壊を防ぐ基本は、物を取るにしても、廃棄物を捨てるにしても、再生能力と浄化能力の範囲内に「規制」することである。ゼロにする必要はない。すなわち「発生源で止める」ことである。持続的な社会とは、再生能力と浄化能力を増やしつつ、その範囲で生活する社会、すなわち、ルールある「規制」の社会である

14,自然エネルギーの種類とその長所と弱点
(1) 太陽光
① 増田邸の18年の経験、②太陽光は散乱光で発電―壁面が使える、③太陽光で発電した電気で水を電気分解して水素をつくり、燃料電池に使う
(2) 太陽熱
① 太陽のエネンルギーを最も効率的に使う方法、②1970年代のサンシャイン計画の失敗、③突然、曇ったり、雨になって温度が下がるときの対応がポイント
(3) 風力
② 雷に弱い、②「風の息」が大きいので、発電量の変動が大きいー電力会社が買い上げを渋る口実になっている、③低周波ノイズがでる、④バード・ストライクなどが起る
(4) 地熱
① 火山国で多くのエネルギー源がある、②地下の熱せられた岩体から取り出した水蒸気にヒ素やカドミウムなど危険なものが含まれるとその後処理が面倒、③公園法の問題
(5) 小水力
① 日本はこの資源は無尽蔵、②水利権が問題
(6) 波力、潮力など
(7) 燃料電池―水素の供給が安価にしかも大量に出来れば、最も将来性がある
(8) 火力発電所のコンバインドサイクル発電化
① 熱効率がよい、②立ち上がりが早いので、調製発電に最適、③貯炭場のような広大な敷地が不要、④分散配置してコジェネレーションにすれば効率は90%以上

15,原発は“第2の火”になりうるか
(1)「安全な原発」の条件―安全炉の研究
  ①自動的に暴走を防ぐ、②プルトニウムをつくらない燃料を使用―トリウムを使う、③既に「溶融塩炉」の研究がある
(2)使用済み核燃料の安全な処理
  ①高レベル廃棄物を低レベルに変える研究、②それは将来の問題ではない。既に何万本もの使用済み核燃料がたまっている。この低レベル化は緊急の課題
(3) この2つが解決すれば、核分裂は“第2の火”になりうる。それまでは原発ゼロ
(4) 永久に「原発ゼロ」の世界を
① 原発は熱効率が悪く、放射線は処理困難、②太陽熱利用が最も効率的、③効率の良い、しかも取扱いの容易な自然エネルギーが出れば原発なしでやれる

16,持続可能な社会を目指して
(1)戦争のない平和な社会
(2)再生能力、浄化能力の範囲内で生活が営まれる社会
化石燃料の消費を減らす社会は地球温暖化も大気汚染もない
(3)法律・規則・条約で規制される「ルールある社会」                      (2012・8・11)


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